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【看護師・怖い話(六)】大部屋のふたり

看護師が病院の病棟で体験した、背筋がゾッとするリアルな話

病院で働く看護師は、日々、生と死を身近に感じています。

そんな看護師は、時には不思議な経験をしたり、見聞きすることがあるんです……。

【看護師・怖い話】シリーズでは、現役の看護師が実際に体験した身の毛がよだつ怖~い出来事や、患者さんから見聞きしたゾッとする実話を紹介します。

今回は、皮膚科・形成外科クリニック勤務のSさん(40代前半)が、大学病院の病棟勤務をしていた時の患者さんのお話です。

大学病院の病棟

 

私は以前、大学病院の病棟で働いていました。

 

がんで闘病する患者さんも多く、身体への負担が大きい治療を続ける患者さんや、入退院を繰り返す患者さんも少なくありません。

 

そのため、病棟はいつもどこかピリッとした緊張感がありました。

 

今働いている皮膚科・形成外科クリニックでも、もちろんスタッフはみんな責任感を持って仕事をしています。けれど、やはり大学病院の病棟となると、職場の雰囲気は今とはまるで違うものでした。

 

そしてその雰囲気の違いを、思わぬ形で体感したのでした。

 

 

ふたりの患者

 

はじめに勤務した病院は規模が大きく、患者さんの数も多い大学病院でした。常に忙しく、いろんな年代のがん患者さんが入院していました。

 

そんな中、がんの種類も同じで、40代と近い年齢で入院していたふたりの男性の患者さんTさんNさんがいました。

 

ふたりは、化学療法や放射線療法などで入退院を繰り返していて、同じタイミングで入院することがよくありました。

 

しかも、いつも男性の大部屋で、部屋も同じになることが多かったのです。

 

ここまで同じタイミングだとどうしても印象に強く残り、今でもふたりが同じ大部屋にいる光景はよく覚えています。

 

ふたりとも口数の少ない患者さんで、もちろん他人でした。ですが、顔を合わせることが多く、がんの種類や治療も同じとあって、自然と会話が増えていきました。

 

日に日に打ち解けていく様子は、一緒に闘う戦友に出会った希望の光のようにも見えて、看護師であるスタッフの皆もあたたかく感じたものです。

 

 

友情と病状

 

すっかり仲が良くなって励まし合うふたりに、「ふたりとも順調に回復していくように」と、スタッフはみんな願っていました。もちろん、本人たちも同じ想いだったと思います。

 

ところが、ある日を境に、ふたりの病状に変化が現れました。

 

 

Tさんは、治療の効果が良く、少しずつ元気になっていきました。

 

Nさんは治療の効果があまり現れず、病状は悪化……。

 

年齢が比較的若いこともあって進行は早く、ほどなくしてNさんは亡くなってしまったのです。

 

 

同世代、同じ環境で同じような治療をしていたにも関わらず、ふたりは違う結果を迎えてしまいました……。

 

変化

 

Nさんが亡くなられたすぐ後、Tさんが化学療法のため再入院しました。

 

いつもの大部屋にご案内しようと、廊下を歩いていて大部屋に近づいた時のことです。

 

大部屋の入口に足を踏み入れそうになるや否や、ふいにTさんがピタッと立ち止まり、険しい表情になりました。

 

そして、突然

 

あの部屋は絶対嫌だ!

 

と叫んだのです。

 

 

 

こわばった表情で大声を出すTさんに、私は思わず動きが止まり立ちすくんでしまいました。

 

なぜなら、これまで大変な治療中もワガママを言うことなどなく、闘病してきたTさんなのです。

 

それに今まで過ごしていた大部屋をそんなに拒否するなんて……。

 

あまりにも別人になったかのような物言いと気迫に圧倒されてしまい、しばらく私も動揺が隠せませんでした。

 

予感

 

そこまで拒否されたら仕方ないので、調整して違う部屋に変更することにしました。

 

とはいえ、なぜそのように急にTさんが反応したのかはその場では分からずのまま。

 

一体、Tさんは何が嫌だったんだろう。

 

どうしてもそのことが引っ掛かっていたので事情を聞きに行くと、Tさんは私の目を強く見て、こう言ったのです。

 

なぁNさんはどうなった?まだ生きてるよな?嫌な予感がして……

 

一瞬Tさんが何を言っているのか分からなくなりました。

 

Nさんはこの前、確かに亡くなりました。

 

私がつい言葉を詰まらせていると、

 

 

あの部屋に入ろうとした瞬間に、なにかを感じたんだ。

それがなんとも言えない嫌な感じで。

だから、あの部屋に入るのがなんだか耐えられなくて

 

 

大声を出してまでかたくなに拒否した理由を話してくれました。

 

大部屋に近づいた瞬間に、Tさんは何かを感じ、そしてNさんに何があったか悟ったのです。

 

 

Nさんが亡くなったのは、Tさんが一時退院していた時のことでした。そしてTさんは再入院の初日のため、まだNさんのことについて伝えられず知らないままだったのです。

 

ふと、Tさんは大部屋の前でNさんの気配のような何かを感じたのかな……と思いました。だから、大部屋が近づいたときにTさんは急に悟ったのでは。

 

でも、なぜ叫んでまで大部屋に入ることを拒絶したのだろう。もしかすると、NさんはTさんに、何かを伝えたかったのかも……。そして、それをTさんは感じ取ったのだろうか……。

 

 

亡くなったNさんがTさんに何かを伝えたかったのか、どんな想いや理由があったのかは分かりません。

 

人は生きている者同士のコミュニケーションだけではなく、亡くなっても伝えたい人に想いを届けたり、受け取ることはできるのでしょうか?

 

そして気がかりなのは、仮にNさんが何かを伝えようとしていたのなら、何を伝えたかったのかなぜTさんを部屋から遠ざけようとしたのか……

 

 

 

実は、あとで先輩看護師から聞いた話ですが、その病室では以前NさんTさんと同様の病状で、ひとりで大変苦しんで亡くなられた患者さんがいたとのことです。

 

この件が関係あるかは分かりません。

 

けれど、なぜNさんだけが快復に向かわなかったのか、TさんはNさんの何を感じたのか……それも分からないままです。

 

Tさんはその後、治療の経過も順調で退院されました。

 

 

 

科学的ではないと分かっているし、私はもともとはオカルトを信じません。

それなのに、病院で働いていた時は不思議なことが多く、そして“理屈では説明できない”そう思わざるを得ない出来事が多々あったのです。

 

 

 

コチラの記事もご覧ください

【看護師・怖い話(二)】深夜の泣き声

 

【看護師・怖い話(四)】血だらけの頭

 

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