「もし転職活動中に妊娠がわかったら、転職はあきらめるべき?」と考えてしまう方も、少なくありません。
確かに、身体のことを何より大切に考える必要がある時期ですし、バリバリ働くことはむずかしいのではないかと考えるのは当然です。
特に心配となる点は、「そもそも転職できるのか」、「転職が決まっても、妊娠している状態で転職先に貢献できるか」などの要因でしょう。
そこで今回は、妊娠中の看護師さんの転職についてご紹介します。転職できるのか、また転職してどのような現実が待っているのかなど、妊娠する可能性のある方はあらかじめ知っておきましょう。
看護師が、妊娠していると分かったらすべきこと
看護師は、何より体力を使う仕事です。
転職を考えることの前に、妊娠が分かったときにすべきことを頭に入れておきましょう。
1.妊娠が分かった時点で、職場へ報告する
妊娠が分かり出産予定日などが把握できたら、職場と直属の上司に報告しましょう。
妊婦さんの定期健診などを受けるスケジュールが分かっていれば、それも伝えてください。
体力が要る業務を回避してもらい、健診のためのスケジュール調整を図ってもらうことが第一です。
その上で、仕事を続けるかどうかの意思を聞かれるかと思いますが、もし転職を考えていても退職するとはすぐに伝えないほうが良いでしょう。
2.さしあたり産前休暇の希望を出しておく
転職を考えていたとしても、妊娠が分かった時点でその計画は一旦保留することを薦めます。
出産予定日の6週前から産前休暇を取得できるため、その希望を伝えておきましょう。
病院によって休暇申請の手続き方法も異なるため、どのように手続きをするか妊娠が分かった時点で把握しておいたほうが良いでしょう。
3.育児休暇についても検討する
仕事を続ける場合は、産休後に育児休暇に入る場合もあります。
それを踏まえ、育休取得に関することも確認しておきましょう。
育児休暇が取得できる要件は「その職場に1年以上勤務していて、育休が終わったら復職する契約をしていること」です。
看護師は妊娠したら退職すべき?
妊娠が分かると、つわりなど体調の変化に悩まされる機会も多くなります。
これから身体の無理がきかなくなっていくことを考えると、仕事は辞めたほうが良いのでは? と思う方も多いでしょう。
しかし実際には、仕事を一旦辞めてしまうよりは産休・育休を取得したほうが良いと考える看護師さんの声が多くあります。
しかも、妊娠で退職した看護師の方の声にも「辞めないほうが良い」と仕事の継続をすすめるケースが多いのです。
看護師が妊娠しても退職せず、産休を取って働き続けることのメリットは、以下のとおりです。
・出産手当金があり、休んでいる間も収入が確保できる
・要件を満たせば出産後、育休が取れて育児休業給付金も受けられる
・ブランクを意識せず、育休後すぐ現職に復帰できる
出産・育児で退職した看護師さんが復職時に悩まされるのは、一定期間仕事に就いていなかったための「ブランク」の問題が主体。
その点、産休・育休を取得して休んでいるだけなら職場に居場所は残っていますし、ブランクを意識することなく規定通り復職することができます。
次の項目では、出産・育児をすることで支給される3つの給付金制度について、ご紹介します。
出産一時金・出産手当金・育児休業給付金について
出産をすると支給される「出産一時金」、「出産手当金」、育休を取得した場合に支給される「育児休業給付金」について、ご紹介します。
なお、育児休業給付金は育休を取得して仕事を休んだ場合に支給対象となるので、転職して育休取得要件を満たさなかった場合は受給できないこともあります。
出産一時金
健康保険の被保険者またはその扶養家族が出産をすると、1児あたり42万円が一律で支払われます。
健康保険の加入元が健康保険組合や健康保険協会の場合は組合または協会から、国民健康保険の場合はお住まいの市区町村から支給されます。
出産手当金
出産日または出産予定日の42日前から56日後までの期間、所定の日額換算で健康保険から支給されます。
この期間は産前産後休暇中で給与の支払いを受けないとみなされるため、その代替として支払われる手当です。
そのため、この期間中に給与支払いがあった場合、給与を受けた期間については支給対象外となります。
また、この手当を受給できるのは健康保険の被保険者本人のみです。
手当(日額)の計算方法は、以下のとおりです。
支給される以前12か月の標準報酬月額平均÷30×3分の2=出産手当金の日額
育児休業給付金
出産後に育児休業を取得した場合、その期間に応じて支払われる給付金です。
この給付金の支給元は雇用保険なので、雇用保険に加入していて育児休暇を取得した人だけが支給の対象です。
金額の計算方法は、以下のようになっています。
休業開始時賃金日額×支給日数×67%=支給される育児休業給付金
※休業開始から6か月が経過した後は、掛率が50%となります
妊娠・出産後に看護師として復帰できる?
先に「育休が明ければ復職できる」とご説明しましたが、それはあくまで規定上の話です。
育休が明けるころから、育児がさらに大変になることを意識する方も多いでしょう。
育休後の復職は可能ですが、以下のポイントを押さえておくと復職間近になって悩んだり、慌てたりせずに済むでしょう。
1.育休明け後に、子供を預けられる手段が確保できているか
保育園に入れる準備を整えたり、家族や親族に育児をある程度代わってもらったりできる状況であれば、その段取りをしておきましょう。
2.看護師専用の託児施設が併設された病院で働く
子供が保育園に入れるか不透明で、近くに親族がいないなどの状況なら、託児施設がある職場で看護師として働くことを考える方法もあります。
妊娠が分かってから転職を考えることは現実的ではないかもしれませんが、妊娠の可能性を考えて事前にそのような職場へ転職する期間的余裕があるなら、一考の余地はあるでしょう。
妊娠中の看護師は転職できる?
まずは、多くの看護師さんが心配する「妊娠してからの転職は可能か?」についてご紹介します。
妊娠中の看護師さんの転職先はあるか、また転職する場合はどのようなことに注意すべきかなど、転職を考える前に知りたいことをまとめました。
1.妊娠中の看護師さんの転職は、仕事の内容次第
基本的に妊娠している看護師さんの場合、転職先は限られてしまう場合が多いです。
検診センターなどで座り仕事が主体となる業務や、短期・単発のイベントナース(イベント会場の救護室などで働く看護師)などであれば、採用される場合もあるでしょう。
しかし、病棟のフルタイム勤務など、体力的に負担が大きい業務では採用されにくいことが考えられます。
それ以前に、身体への負担は極力避けなければなりません。どうしても転職する必要があれば、座り仕事や単発アルバイトなどを安定期の間だけ限定的にする…… という働き方が望ましいと思われます。
いずれにしても、身体のコンディションを最優先にして働き方を考える必要があるでしょう。
2.転職時に妊娠していた場合、育休は基本的に取得できないので注意
妊娠中の看護師さんが転職を考える場合、育休の取得についてはどうなるのかも知っておきましょう。
育休制度は、基本的に取得する前の12か月間、その職場に勤務している場合にのみ対象となります。
つまり、妊娠中に転職した場合は無条件で育休制度の対象外となってしまうことになります。
産前・産後の休暇は取得できるケースも多いのですが、出産直前と出産後の8週間だけ休んですぐに復職できる条件が整っている方でなければ、産前・産後休暇だけを当てにして転職することは現実的ではないでしょう。
また、転職できても妊娠中である限り、急な事態で職場を離れる可能性も高くなるでしょう。
そのような場合にも、周囲の理解を得ることができるかという点にも注意が必要です。
しっかり働きたいなら、出産後落ち着いてからの転職が吉!
転職を考えている看護師さんがもし妊娠しているとわかったら、まずはいったん転職活動の仕方について見直すことをおすすめします。
基本的には、出産前と出産後の働き方については分けて考えましょう。
出産後どう働けばよいかは、実際に出産してからでなければわからない場合のほうが多いからです。
ここでは、妊娠中の看護師さんが転職活動を見直す場合、考えられる選択肢についてご紹介します。
1.いったん計画をリセットし、現職での産休・育休後に再考する
現職でまだ働ける状況であれば転職活動をいったんやめ、産休・育休を経て復職後にあらためて転職を考える方法も一案です。
現職をどうしても辞めなければならない事情があるならともかく、このまま働き続ければ産休や育休に入れる状況なのであれば考え直すほうが無難です。
特にキャリアアップや給与アップなど、発展的な転職を考えているならこの方法をとることがおすすめです。
2.出産までの短期パート・アルバイトなどに転職の方向性を変える
フルタイムでしっかり働ける転職を考えていても、妊娠がわかった後では思い通りの転職活動がむずかしくなることも。
今現在前の職場を辞めてしまっているなどの状況であればいったん考え方を切り替え、パートやアルバイトの仕事を考える方法もあります。
先にも述べましたが、単発・短期で座り仕事メインの業務や体力的負担の少なめな仕事であれば、安定期の妊婦さんでも採用してもらえる場合があります。
くれぐれもご自身の体調とよく相談しながら、妊娠していても働きやすい職場を見つけましょう。
看護師さんはつねに多くの求人があるため、基本的には転職でも焦る必要はありません。
出産後、体調や身の回りが落ち着いてから本格的な転職を考えても、遅くはない場合が多いでしょう。
妊娠中、看護師の仕事で気を付ける点
妊娠してから産休までは、仕事を続けることになります。
もちろん普通の体調ではない時期ですから、注意することは数多くあるでしょう。
周囲の理解も得ながら、ご自身でも十分に気を付けて業務にあたってください。
1.体力的負担の大きい業務は回避してもらう
これは当然ですが、重いものを持ち上げたり急いで院内を移動したりする作業は避けましょう。
また階段での移動も可能な限り避け、使えるならエレベーターでの移動をメインにしたほうが良いでしょう。
体調によっては、においが発生する現場を回避したほうが良い場合もあります。
2.不本意ながら「マタニティハラスメント」の可能性も
そのような嫌がらせが職場であってはならないとは思いますが、ゼロではないのが妊娠中に職場で「マタニティハラスメント(マタハラ)」に遭う可能性。
つわりが重いことで業務をこなせず叱責されたり、不妊に悩む先輩や同僚に嫉妬から悪口を言われたりしたなどの事例もあるそうです。
妊娠すると、自身の体調だけでなく周囲の反応が変化する可能性も。
しかし、心身ともにデリケートになる期間ですから、悩み事や不安があれば相談して改善策を講じましょう。
もしつわりなどの不調でどうしても業務の範囲が限定的になるなら、病院を受診して診断書を発行してもらい、実情を正直に伝える方法が有効になることもあります。
まとめ
今回は、妊娠がわかった看護師さんの転職活動の方向性について、さまざまな選択肢を挙げながらご紹介しました。
もちろんお金を稼ぐことも大事ですから、妊娠中も働きたい看護師さんは一定数いらっしゃるでしょう。
でも、なんといっても最優先すべきはお腹の赤ちゃんのことです。
妊娠中はまず身体のコンディションを第一に考え、負担を少なくできるような転職先を探しましょう。
しっかり働ける転職先をあらためて見つけるのは、実際に出産を終えてその後の状況を見計らうことができてからで問題ないかもしれません。
スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
派遣や転職をはじめとした就業経験豊富な看護師と編集スタッフが「看護師のはたらく」に関する情報を日々お届けします。