Vol.015 わかるらしい。
入院するとお酒もタバコも飲めなくなります。
入院するまでヘビースモーカーだったSさんは、膵臓がんで全身に転移をしてしまった人です。「食事はとらなくても大丈夫だけど、タバコはがまんできない」と訴えます。歩行も出来なくなっていたので、病室から自力で出ることは出来ません。
20数年前は病棟の面会室で喫煙することができました。(今は全館禁煙のところがほとんどですが・・・。)その当時、換気も十分ではなく、時折、廊下にタバコのにおいがします。Sさんはその匂いを嗅ぎつけ
「タバコ、タバコが吸いたい!」とコールしてきます。
今の状況が無理なことを説明しても、理解していただけません。そのうちSさんはいらいらしはじめ
「吸いたいっていってんだろ。タバコ持ってきてよ」と恐らくご自宅にいる錯覚を起こしています。このやりとりは昼夜を問わずされるので、奥様に
「禁煙パ○ポを持ってきていただけませんか?」とお願いいたしました。
後日、奥様が禁煙パ○ポを持参してくださいました。始めはそのままくわえていましたが、味が違うのと煙が出ないことに気がつかれ
「タバコじゃない。タバコ持ってきて。」
今度は火に見えるように禁煙パ○ポの先を赤マジックで塗ってお渡ししてみました。見た目は火のついたタバコのようです。Sさんは必死に吸っていますが、煙は出ません。そのうち
「火が付いてないみたい。ライター持ってきて」と。さすがにライターはお渡しできないので、火をつけるふりだけしてみました。
その後、だんだん病状が悪化し昏睡状態になり、旅立たれてしまいました。
後に奥様から聞いたところによると若い時からかなりキツイ煙草を一日50~60本吸っていたとのことでした。
昨今、喫煙率は成人男性でピーク時の83.7%(昭和40年)から32.7%(平成24年)まで減少しています。この背景にはたばこ税の増税と健康志向が影響していると思われますが、諸外国に比べ日本は比較的安価で手に入り易くなかなか喫煙率が下がりません。
Sさんのように長年、喫煙されていると味や匂いで銘柄までわかる(?!)かもしれませんね。利き酒ならぬ利きたばこできたりして。