|Vol.008 泣くに泣けない。
病院勤務をしていると、お昼は前半、後半に分かれて職員食堂食べに行きます。
私が勤務していた大学病院は学内に3箇所ありました。職員食堂ですから、看護師だけではなく、ドクターはもちろん事務さんやその他の職員が入れ替わり立ち代わり食べにくるわけです。限られた時間で、いかに早く席を確保し、早く食べるか。さながら「椅子取りゲーム」ならぬ「席取りゲーム」。もちろん、この役は一番下っ端の仕事ですが・・・。
この間の病棟では受け持ち患者さんの申し送りをしてご飯に行きます。
病棟も昼食時間。私がいたところは殆どの患者さんが自分で食べれるか、絶食のどちらかの方でした。食事介助はあまり必要ありません。
入院患者さんの楽しみは食事(意外とメニューも凝ってて美味しかったのです。)と入浴。(入浴も入れる人と清拭の方と分かれますが。)
60代男性のMさん、腹腔鏡目的で入院されていました。連日、検査が入っていたので、食止めが毎日1回は入っていました。この日は午後に検査が入っていたので、昼食は食止め。「唯一の楽しみの食事が食べれない上にいい匂いが部屋中にするのは我慢できない。」と、この日は昼食が出されている時間にお風呂に入ることを希望されました。
後半の先輩看護師に申し送りをして、私は食事に行きました。
休憩時間が終わり、ナースステーションに戻ると先輩Nsが
「Mさん、入浴中に浴室で転んでガラスで頭を切った」と報告されました。
あわててMさんを診に行くとすでに白いネットを被ったMさんが寝ていました。後頭部を5針縫う怪我です。
「お風呂の石鹸ですべって転んじゃって」と。浴室を見に行くと、な、なんと脱衣場と浴室を分けるガラス戸が粉々に割れています。
『こんなに粉々なのに、よくあれだけの怪我で済んだなぁ』と感心しつつナースステーションに戻ると、休憩明けの先輩Nsから「受け持ちなんだから、報告書(アクシデントレポート)書いてね」と言われました。『状況もな~んにもわからないのに報告書って・・・。理不尽な』(心の叫び!)仕方なく、Mさんからお話を伺い、報告書を書きました。浴室はガラス戸が入る3日間、立ち入り禁止になりました。
大学病院に勤務していた3年間、何枚、報告書を書いたことでしょう。
大半は自分のミスでの報告書。その目的は同じ事故を起こさないため、振り返りが大事ということですが、Mさんの一件は振り返りたくても振り返れない、泣くに泣けない報告書でした。