Vol.0065 ペットと患者さん~ニャンコ編~ [2015/01/30更新]
みなさま、ごきげんよう。
たとえコタツでうたた寝をしても
風邪ひとつひかない健康優良児マツコです。
ここ最近、暖かくなったり、寒くなったり…
温度差の激しい日々ですが
体調を崩されたりしていませんか?
さて、先週に続き、
患者さんとペットのお話。
今回は、
心臓ペースメーカーの植え込み目的で入院された
おばあちゃんとニャンコのお話です。
心臓は、ご存じの通り規則正しく、
例えるなら
メトロノームのように同じリズムで動いています。
しかし、何らかの原因で、このリズムが崩れてしまい
いわゆる、不整脈という状態になってしまうことがあります。
乱れたリズムを正しいリズムに導くのが、
心臓ペースメーカーです。
この心臓ペースメーカー植え込み術。
一見、心臓に器械を付けるなんて!怖い!
…と思われがちですが、
手術自体は局所麻酔で行われ、傷口も4~6cm程度。
問題がなければ1週間ほどで退院できます。
患者さん自身にもさほどダメージはなく、
多くの病院でクリニカルパスにのせて運用しています。
心筋梗塞で緊急入院された方や、
心臓の外科手術を受けられた方に比べると重症度が低く、
傷口以外は体も元気で自立されている方が多いのも特徴。
そのため、どうしてもナースステーションから遠いお部屋に
入院して頂くことが多く、重症患者さんに比べると、
看護介入する時間が少なくなってしまうのが実状です。
今回の患者さんは80代。
小柄で色白のとても可愛らしいおばあちゃんでしたが、
長年1人暮らしをされており、とても気丈な方でした。
(姿勢正しくベッドに腰掛け、
分厚い文庫本を静かに読まれている姿が、とても印象的でした)
マツコは、入院された日を受け持ったため、
アナムネ聴取の際に
・お1人暮らしであること
・ニャンコを飼っていて、その仔が生きがいであること
・入院中は、息子さんが様子を見に行きお世話をしてくれること
を伺っていました。
同じペットを飼っているもの同士、
ついついそこで話の花を咲かせ、
「お互い寂しいですが、一週間の辛抱です!」
と話したのを覚えています。
翌日の手術日、翌々日もマツコは受け持ちではなかったのですが、
術後3日目に受け持ちになり、おばあちゃんの元に伺いました。
朝の挨拶をして、バイタル測定、観察をしながら
「ん?なんだか元気ない?」
と思い、
「傷が痛みますか?夜は眠れていますか?」
などの質問をしましたが、
「大丈夫よ。」
と返事が返ってきました。
…だけど、どこか元気がない。
入院して4日目。
そうだ!
清拭や洗髪のお声掛けをしてみよう!
と思い、ご提案しました。
はじめはあまり乗り気ではなかったご様子でしたが、
「じゃあ、身体拭きをお願いしようかしら」
とおっしゃって下さり、
すぐに準備をして再訪室しました。
カーテンを閉め、準備をしながら
「やはり、お元気がないように見えるのですが…」
としゃがみ込んで、
ベッドに腰掛けて座るおばあちゃんを覗きこみました。
すると、それまで気丈に振る舞われていたおばあちゃんの顔が
みるみる悲しそうな表情になり、目を真っ赤にしながら
「あなたにお話ししたうちの仔、一昨日、突然亡くなっちゃったの」
と言い、両手で顔を覆われました。
息子さんが、夜におばあちゃんのご自宅に行ったときに
階段で亡くなっていたそうです。
顔を両手で覆うその姿は、
元々小柄なおばあちゃんを、より小さく見せました。
マツコ自身もこみ上げてくる涙をこらえられず
気づくとおばあちゃんを抱きしめていました。
背中をさすりながら
「つらかったですね、つらかったですね」
と言うことしかできませんでした。
その後清拭を行いながら、
少しずつおばあちゃんは
ニャンコのことを話し始めました。
「あの仔もおばあちゃんだったからねえ…
最後にひとりぼっちにさせてしまって、
さみしい思いをさせてしまいました。」
子どもの数より多い、日本のペット数。
独居の高齢者がペットを飼う場合に、
飼い主が長期入院したり、亡くなられてしまうなど、
ペットが路頭に迷ってしまう問題が、各地で起きているそうです。
そのため、
高齢者はペットを飼わない方が良い
という声が多々あります。
その一方で
ペットセラピー(アニマルセラピー)
というものもまた、重要視されてきています。
おばあちゃんもその一人だったと思います。
ニャンコが一人暮らしの寂しさを癒してくれ、
張り合いを持たせてくれ、
おばあちゃんの言葉にあるように
“生きがい”だったのです。
そんな大切な存在を自分の入院中に失ってしまい、
最後を看取ることも、葬ってあげることもできなかった…。
そのショックの大きさを想像するだけで、
かける言葉が見つかりませんでした。
マツコができた唯一のこと、
それは、日当たりが良く
病室の患者さん同士の関係も穏やかなお部屋に
お引越ししてもらうことでした。
最初におばあちゃんが入院されていたお部屋は、
毎日、入退院が激しくて、同室の方とも疎遠になりがち。
しかも、少し日当たりの悪いお部屋だったので…
リーダーに相談したところ、快諾していただけました。
それから数日後。
そのお引越し先のお部屋を訪室すると
同室の方と穏やかに日向ぼっこをされながら、
お話をしているおばあちゃんをみたときに、
少しだけホッとしたのを、今でも覚えています。
私たち、
医療者にとってはたった一週間のパス入院。
ですが、ひとりひとりの患者さんには、
様々なご事情やお気持ちがあります。
パス入院の多い病棟では、
つい病気や治療に医療者が慣れてしまって、
患者さんが置いてきぼりになってしまうことが…。
忙しさに紛れて
大切なものを見失ってしまわないように!
例え短期のパス入院であっても
ひとりひとりの患者さんと向き合い、
「業務」ではない「看護」を行っていきたい、
そう強く思ったできごとでした。
結局、高齢者とペットの問題については、
自分なりの答えもみつけられないまま、
いまにいたります…
みなさんのお考えは、いかがですか??
マツコ