Vol.016 贅沢病
その昔、糖尿病は『贅沢病』と言われた頃があったそうです。
戦時中、戦後間もなくの日本はその日の食べ物を確保するのも難しい時代だったと高齢の方から聞きました。米も無く、芋やかぼちゃなどが主食だったそうです。
そんな時代を生き抜いてきた人たちですから、飽食の現代はまさに天国なのかも知れません。
その方たちのお子さん世代のNさんは、お嬢さん2人を女手ひとつで育てあげた人です。明るくて、陽気な方で、昼は診療所の受付、夜はスナックのママと昼夜を問わずよく働く人です。娘さん達も独り立ちをしたので、受付は辞め夜の仕事だけになったのですが、以前からの糖尿病が悪化していました。先生から「インシュリン注射を」と勧められていたのですが、なかなか導入できない状態でした。とりあえず、先生から「運動するように」と指導され、毎月採血で様子を見ることにしました。
採血をしながら食事の話になりました。通常、空腹時採血なので9時間前には食事を終わらせていただいていますが、この日のNさんから「昨日の夜12時頃に頂き物のステーキを食べちゃったから、結果はよくないわよねぇ」とニコニコしながら話しています。それを聞きつけた先生は「なんで夜中にステーキ食べちゃうの?」と半分あきれた感じでNさんに語ります。
「だっておいしそうだったし・・・。それに悪くなる前に食べちゃおうと思って」Nさんは野菜・魚嫌いで甘いもの、肉が大好きなのです。栄養士に栄養指導を受けてもどうしても食生活は変えられず、ついにインシュリン注射が始まりました。その後、夜の仕事を辞めることで多少、日常生活は改善がみられましたが、やっぱり食生活だけはなかなか変えられなかったようです。
その後Nさんは娘さんと一緒に暮らすことになり、引っ越して行かれました。最後に「おいしいものはがまんできないのよねぇ」と言い残して。