ナースとして働き始めたばかりの新人のみなさんなら、日ごろから「インシデントに注意するように」と先輩から強く指導を受けているのではないでしょうか。
また、将来看護師を志す学生さんのなかには「インシデントってどういう意味?」と思っている方もいらっしゃるでしょう。
そこでこの記事では、新人看護師のインシデント事例をご紹介しながら、事故を未然に防いだ対処方法についてもご説明します。インシデントという看護用語の意味もくわしく取りあげますので、ぜひご参考にしてください。
看護における「インシデント」とは何か
看護業務における「インシデント」とは、些少のミスなどで医療事故・医療過誤には至らなかった「ヒヤリ・ハット=事故未然」の案件を指します。
また、放置すれば重大な過失を生む可能性があった事象を、適切な対処によって防げた事例についても、インシデントと呼んでいます。
新人の頃はまだ実務に不慣れですから、インシデントを起こしてしまうことも決して珍しくはないでしょう。思い返せばぞっとする出来事かもしれませんが、先輩や上司に助けてもらいながら業務を正しく身につけていくことも経験です。
インシデントの発生に立ち会っても過度に落ち込まず、「事故にならなくてよかった」「新人のうちに教訓が得られてよかった」と反省しつつ切り替えていくとよいでしょう。
具体的なインシデント事例とその対処
ここでは、実際に看護の現場で起こったインシデントと、それに対処した事例について具体的に3つご紹介します。
【1.救急外来の手術で患者さんのコンタクトレンズ確認を忘れた事例】
救急でやってきた患者さんが、そのまま緊急手術をすることに。緊急手術の場合は患者さんが身に着けているものをすべて確認し、取り外して手術を行います。しかし当時入りたての新人だった看護師のAさんは初めて救急患者さんを担当することで必要以上に焦ってしまい、コンタクトレンズの装用に関する確認を忘れてしまいました。
【対処とその後の経過】
結局そのまま手術は無事終了し、手術後に慌てて眼科医に患者さんを確認してもらいましたが異常なしとのこと。
Aさんはホッとすると同時に、「何があってもコンタクトレンズの確認は忘れない!」と、就業直後にして多大な教訓を得ることになったのでした。
【2.早朝の産科病棟でうっかり居眠りしてしまった事例】
忙しい夜勤が続き、あと少し頑張れば休みになるというタイミング。産科病棟で忙しく仕事をしていた新人看護師のBさんは、深夜の勤務中に強い眠気に襲われましたが、夜も明けようという時間に入ってから、ちょうど少しずつ陣痛が始まっていた産婦さんを受け持つことに。
それほど産婦さんの陣痛が強くならなかったこともあり、気づけば産婦さんと一緒にBさんまでうっかり寝てしまうという事態が起こってしまいます!
【対処とその後の経過】
Bさんがうっかり寝てしまっている間も状況の大きな変化はなく、その後のお産は驚くほどスムーズに終わりました。
しかし、結果オーライというわけにもいかず看護師生活初のインシデント報告を書くことに……。先輩や上司に苦笑いされる程度の事案で済んだものの、「寝てしまっている間に、もし緊急案件が起こっていたら」と今も恐怖を覚えてしまうとか。
何事もなくてよかったと思い出すたび、ヒヤヒヤした当時の気持ちがよみがえるそうです。
【3.新人看護師で最も多い、点滴に関するインシデント事例】
新人看護師のCさんは、看護業務にも慣れ始め多くの入院患者さんを受け持っていました。
患者さんに点滴をする際には、決められた時間になったら途中で速さを変える作業が必要になります。とても忙しくてんてこ舞い状態になっていたCさんは、ある患者さんの点滴の速さを変えるタイミングを誤ってしまいます。
【対処とその後の経過】
単純なミスで患者さんの症状や容態に変化はなく、その場で先輩看護師から注意を受けるにとどまりました。
しかし、Cさん自身がこのインシデントを後悔するあまり、通常の業務に対しても及び腰になってしまう日々が続きます。
上司がCさんの担当患者をいったん減らすなどし、少し落ち着いて業務に取り組めるよう配慮してくれましたが、「仕事ができないせいだ」とさらに落ち込むことに。悩むCさんに先輩看護師が親身に相談に乗ってくれるなど、時間はかかったものの徐々に立ち直ることができました。
Cさんは周囲の支えに感謝するとともに、目視確認の際は指をさすなど慎重なチェックを心掛け、自発的にミスの発生を防げるようになりました。
まとめ
今回は、新人看護師の多くが経験する医療行為や介助に関するインシデント(ヒヤリ・ハット、事故未然の問題案件)の事例をご紹介しました。
新人のうちはプリセプターの先輩看護師や上司のダブルチェックなどにより、些少のミスがあっても事故に至らないよう対処できる状況が極力保たれます。もちろん、新人の段階からインシデントを起こさないよう努めることは大切でしょう。しかし、万一「ヒヤリ・ハット」を経験したら反省し、今後の教訓とするとともに、引きずりすぎず「この先同じ誤りをしない」と前向きに切り替えることも大切です。
スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
派遣や転職をはじめとした就業経験豊富な看護師と編集スタッフが「看護師のはたらく」に関する情報を日々お届けします。